もくじ
無限∞オランジェット開発物語 プロローグ
2020年9月下旬
普通に甘夏のオランジェットを作っていた時、何か物足りなさを感じた。
「これじゃ普通のオランジェットを作っているだけだ・・・。」
と完成した甘夏のオランジェットを食べながら思った。
「よし!自分の思う美味しい物を作ろう」
イメージは不思議と一晩で固まった。
「ピールは柔らかくて、シャリシャリの糖衣でコーティング、
チョコレートのカリッとした食感がすっごく良いのではないか。」
この後、求めるオランジェットがこれ程までに険しい道のりが待っている事も知らず・・・。
ピールの苦味抜き
柑橘の皮に含まれる苦味の抜き方。一般的な方法を紹介します。
私は当初この方法でピールの苦みを抜いていました。
※当初なので最終的な方法は変わりましたので、記事を最後まで読んで頂けたらと思います。
糖度(Brix)について
ピールの作り方。レシピ自体はありません。
柑橘の皮とグラニュー糖、水を適量です。
糖衣掛け
2020年10月初旬~2021年1月までの試作期間
試作をする上で一番困難な行程でした。
困難な理由は1つ
「ピールを乾燥させずに糖衣を掛ける事」でした。
3か月間考えどうしても安定しない糖衣の掛かり具合。
ピールの水分が外に出て糖衣が溶けてしまう、安定して糖衣が同じようにかからない等の不具合の連続でした。
全てを公開できるわけではありませんが、失敗例と考え方の一部紹介します。
はじめはグラニュー糖を使用してピールにまぶしピールの水分で一度溶かして再結晶をこころみました。
結果はジャリジャリ感が残ってしまい、ピールが負けてしまう。
思っていたシャリシャリ感とは程遠いもの。
そのあとは粉糖を使用し砂糖床を作り試しました。
その結果は写真の通り、多くの粉糖が水分を吸って糖衣と言うより、厚めの衣が付いたとんかつ状態になってしまい、またも露頭に迷いました
砂糖床を作り時間を置いてゆっくり結晶化させる方法を試す。
グラニュー糖と粉糖を混ぜて使う事も試しましたが、どうしてもグラニュー糖の大きい結晶が残って思い通りの食感ならない・・。
トライ&エラーを繰り返しある方法を思いついた。
結局、糖衣掛けの試作に約3か月掛かりましたが、試作ロットの少量での安定結晶をする事ができ
大量ロットでの糖衣掛けに問題はあるものの、何とか試作と試食をしてもらえる程度までの完成度になってきた。
ピールを乾燥させずに糖衣を掛ける事を諦めず追求した結果、ピールに水分が残るジューシーなピールの出来上がりには感動の一言では表せない。
試作品完成
2020年11月中旬
まずは色々な人に食べてもらいたいと思い、お菓子を購入してもらった方に試作品を食べてもらいました。
その中で思いもよらない意見を頂いた。
2点心の心に突き刺さる改善点。
「果実感が無い」
「ピールに苦味が全くなくて逆にもったいない。程よい苦味がある方が良い」
なぜこの意見が出たか考えてた。
果実感が無い
→シャリシャリの糖衣を纏わせた事でピールの味がぼやけてしまった。基本の作り方だと糖衣が勝ってしまう。
ピールの苦味が無い。
→ピールを作るのに基本に沿って作っていた。普通のオランジェットなら良いが糖衣がある事で味の構成が甘めに振れてしまう事で味がぼやけてしまう。
2つの意見がそれぞれ別の人から頂いたもの。
この2つをすぐに改善することにした。
ピールに程よい苦味を残せ
2020年11月下旬
丁寧に作る事をして、水を変えて何度も苦味を抜いてきたピール。
どうすれば安定して程よい苦味を残せるのか?
果実によって苦味を確認しながら、水を変えて沸騰させてるのも安定しない。
何度も検証を繰り返し1つの方法にたどり着いた。
「オレンジ」皮を剥き短冊に切った後、圧力鍋で一度加熱。
それ以上の加熱をしなければ、程よい苦味が残る事がわかった。
「グレープフルーツ」皮を剥き短冊に切った後に、冷水につけ一晩冷蔵庫でゆっくり苦味を抜く。
翌日圧力鍋で加熱すると程よい苦味が残る事がわかった。
色々な柑橘を試す中で、オレンジ、伊予間、ブラッドオレンジ、日向夏はオレンジの作製方法
グレープフルーツ、グレープフルーツルビー、文旦はグレープフルーツの作製方法が良いと考える。
※苦味が多い柑橘は水に漬け一晩置く
この方法にして無事に程よく苦味を抜く事ができた。
方法の確立をするまでに何個のオレンジを煮ただろうか・・・。
ピールに果実感を
2020年12月初旬
ピールの苦み抜きが安定してできるようになり
二つ目の改良を行っていく。
以前の方法はピールを作るときに、グラニュー糖と水でシロップを作り煮込むのがスタンダード。
糖衣を掛ける事で、ピールの味わいがぼやけてしまう。
どうしたらピールに果実感を与える事ができるだろうかと悩んだ。
ある日、果実感を与えるヒラメキが思い浮かんだ
「ピールを煮るシロップを作る水の代わりにオレンジジュースを使ってみよう」
オレンジの皮と市販の100%オレンジジュース、グラニュー糖を一緒に煮上げてピールを作った。
作り方は上に書いてある内容と同一
この後、糖衣掛けをしてカカオ55%のショコラでコーティングして試食をしてみた。
結果・・・オレンジジュースに含まれている香料がわざとらしさを増してしまった。
市販のオレンジジュースは加熱殺菌工程がある為、どうしても香りが飛んでしまい、香料を足している事が原因と考えます。
そこで、皮を剥いた後に残る果実をそのまま「果汁を絞り」皮と一緒に煮上げる事にしました。
その結果、ピールなのに果実感がある不思議なピールができあがりました。
市販のオレンジジュースを使用した時のような香料の香りもなく、自然豊かな香りで皮を食べているのか?
果実を食べているのかわからない。
それで皮の程よい苦味を残しているので、果実を丸ごと食べているような、全く新しいオリジナルのピールが出来上がった。
このピールは果汁を含み、適度な苦味が残っている「柑橘丸ごとを凝縮したピール」だと思う。
ここまで来たらあと一歩。
難航するショコラ選び
2020年12月中旬
奇想天外なピールと変態的なこだわりの糖衣掛けまで完成したところで、ショコラ選びが難航。
今まで作っていた普通のオランジェットならカカオ55%でも良かったので、今回も同様に55%のショコラを使うことにした。
チョココーティングして食べてみるとカカオの風味が弱い、少し甘すぎると違和感を感じました。
そこでカカオ72%のショコラを使う事にした、スパイシーでフローラルな香りのするショコラは甘すぎず合うと思いコーティングしてみた。
結果はショコラがビターすぎてピールの甘さとアンバランスになり、ショコラの香りが強いのでピールの繊細な香りが消されてしまいました。
そこでカカオ55%とカカオ72%のショコラをブレンドすることにし、改めてピールをコーティング。
その結果は皆さまご存じのあの味の完成です。
さて、今度はグレープフルーツのピールをコーティングするが、同じショコラではビターすぎて合わない事はわかっていたのでミルクチョコレートをさらにブレンドすることにした。
当初はミルクチョコレートだけでコーテイングも考えたが、甘すぎになるのが目に見えていたのでそれは無しと決めていた。
カカオ55%+カカオ72%+ミルクチョコレート
ブレンド比率を変えながら試作を繰り返して比率を導きました。
見た目はビターチョコレートだが、食べるとほんのりミルクチョコが追ってきて、グレープフルーツの爽やかな香りと苦味にちょうどいいブレンドチョコレートにしました。
やっと商品ができた!!あともう一歩
もう本当においしい!!
果実感あふれるピールに程よい苦味、ほぼ果実のようなピール。
シャリシャリの糖衣が口の中で踊りだして
ショコラのパリッとした食感と甘さと苦味、そして香りが複雑な調和をする唯一無二の無限∞オランジェットが出来上がりました。
デザインのお願い
2020年11月下旬~2021年1月初頭
試作と並行してパッケージデザインもお願いをしていました。
当店のロゴも作製頂いたセンカグラフィック様のご協力で、打ち合わせから約1か月を要しデザイン
Twitterではフォロワー様に複数あるデザインの中から更なるアイディアも貰いながらの作製でした。
無限をイメージして掛け紙いっぱいにオレンジをちりばめて欲しいと、いつもながらアバウトなイメージを具現化して頂きました。
ラフ案から細かい修正を繰り返してもらい、完成したデザインがこちら。
尚、掛け紙上部と下部のチョコレートと果汁が落ちているデザインは決定後の私の追加のお願いで急遽修正デザインを上げて完成となりました。本当に私のわがままを聞いて下さりありがとうございました。
左がオレンジ用、右がグレープフルーツ用で作ってあります。
販売開始
2021年1月下旬
準備が整い、伊予柑の無限∞オランジェットとグレープフルーツのオランジェットを用意し販売開始ができるようになりました。
当初のコンセプト通り、ジューシーなピール、シャリシャリの糖衣、カリッとしたチョコレートの複雑な食感が織りなす理想のオランジェットをを作る事ができました。
10月下旬からの試作から早3か月。
一時はどうなる事かヒヤヒヤしましたが皆様に喜んでもらええるオランジェットが出来上がったと思います。
まだご賞味頂いていない方も是非、彩洋菓子店の「無限∞オランジェット」をご賞味ください。
また試作段階から応援頂いた皆様に心よりお礼申し上げます。